共同浴場の妙味

SFM

2017年12月09日 17:22

生まれてこのかた、ずっと地方暮らしだから、道脇に日帰り温泉の施設をよく見かける。
当時は今よりずっと温泉の軒数も少なかったけれど、共同浴場や銭湯のような趣の温泉が点々とあった。

立ち寄ってみたいと思いながら、ほんの少しの時間が作れなかった。
時間にも気持ちにもゆとりが持てなかった時期だったのだと思う。

気に留めたまま10年、20年と時間が過ぎてしまった。



機会を作って行ってみようかなと考えたのは数年前。
釣りでも、山歩きでも、帰りの道中の温泉は不可欠である。
実を言うと、仕事中に入る温泉などは、一度やったらやめられない。

要するに、いつでも車にタオルと石鹸を積んでおけばよろしい。
大してかさばるものじゃない。




僕としては、飲食店や大広間が併設された立派な施設より、地元の人が利用するこじんまりした銭湯のような温泉の方を選びたいと思う。
お湯の他には何も無いし、湯船もさして広くはないけれど、お湯自体の手ごたえがしっかり感じられることが多いからだ。
ボディソープとか、リンスインシャンプーなんて備えられていないことが多いけれど、僕は固形石鹸で髪を洗うことだって平気なタチなのである。
桶はケロリンのロゴが入っている黄色いやつがあるとこれ以上言うことはない。

近所のおっさんたちに混じって湯船に浸かる。
僕の身体は人より少々かさばるけれど、それだけに気持ちは慎ましくなければならない。
おっさんたちの世間話に黙って耳を傾けていると、ときどき笑いを奥歯のあたりで噛み殺さなければならない。
声に出して笑ってしまうわけにいかない。
でも、口元がゆるむぐらいは大目にみてもらうことにしよう。

間仕切りの向こう側からは、おばちゃんたちの話し声が力強く聞こえてくる。
この年代の女の人の声は、風呂場では特に賑やかに響き渡る。
微笑ましく思えてしまうのは僕だけだろうか。

上がりしなに、「お先ぃぃ・・。」などと声を掛けると、「はいよ、兄ちゃん。」ときた。
僕のような歳になってもこの風呂場ではまだ兄ちゃんでいられるのである。

さて、汗が引いたらそう長居をするもんじゃない。
いい蕎麦を手繰った後に、心を残しながらすっと席を立つ。
あれに良く似ている。



今日の温泉もいいお湯だった。
今度はどこにしようかネ。

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