木っ端岩魚に罪は無い
早春のこの日。
釣りに行くようにしきりに勧めたのは長女である。
僕が家にいると何かしら都合が悪いに違いない。
致し方なく支度をして、玄関を出る刹那。
長女の声。
「よっしゃ!」
確かに聞こえたのであるよ。
午前中ではあるけれど、目ぼしい川はもう人様に歩かれているに違いない。
まだ条件の整わない、日当たりの悪い沢筋に出向かなくてはならない。
はっきり言って気が重い。
世間では、こぞって桜の開花にはしゃいだりしていることと思うけれど、なまじフライフィッシングなどに手を染めたばかりに、不本意ながら残雪の渓へ押しやられる羽目になった釣り師がここにいるのである。
そう言いつつ、渓を歩き始めるとなんだか少し嬉しい。
何はともあれ、岩魚を釣らなければならないのであるが。
どれもこれも絵に描いたような木っ端岩魚である。
けれど魚に罪は無い。
むしろ、釣り師として不徳の致すところである。
掛けた魚のアラ探しをするようでは釣り師失格である。
温泉に入りたくなってきた。
上がろう。
やれやれ。
そろそろ家に帰ってもいいのではないだろうか。
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