尺岩魚 測らなきゃ良かった
春ゼミとカジカガエルが鳴き始めた。
僕はこれを待っていた。
ところが岩魚の出方はまだ浅くて、どこかせわしない。
要するに今一つである。
相変わらず深いところに付いていて、捕食範囲も狭いから、釣るのはけっこう骨が折れる。
けれど、嬉しいことに型が揃ってきた。
手に取ってみると魚体の感触も悪くない。
さて、釜の深みからポンと出たのがこの尺岩魚である。
そう確信してメジャーを当ててみたところ、尺には5ミリほど足りない。
下品な笑みはあえなく消える。
嗚呼、測るんじゃなかった。
物事というものは、なるべく曖昧にしておいた方がいいのではないだろうか。
などと思うのは結果論である。
まあいい。
示された数字は重く受け止めなければならない。
改竄などを致すようでは人間失格である。
ここは、日本人の美徳をもって申し上げたい。
この岩魚は泣き尺である。
良型をもう一本。
正直者の気持ちはほどほどに満たされた。
まだ少しぐらいは上乗せできそうだけれど、そう欲張らずに早々と店仕舞いをするのも悪くないと僕は思う。
日が高いうちから温泉に立ち寄って湯舟を独り占め。
このお湯は、人の世の情けの源泉掛け流しであると思わなければならない。
風呂上りには素晴らしい椀物。
さて、夜はこの味の記憶を肴に。
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