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2019年08月05日

尺岩魚 源流王は楽じゃない

水面に毛鉤を落とす。
岩魚が食ったら合わせを入れる。

たったこれだけである。

同じことの繰り返しだけれど、一人でこなすとなるとこれがけっこう忙しい。
昨今では深山幽谷でも人手不足なのである。

この釣りの核心は徹底した効率にある。
要するに手返しである。
さらに、一本の毛鉤で10匹ぐらいは岩魚を掛けなければならない。

具体的にどれぐらいの忙しさであるか。
手近なところで北アルプス、白馬岳あたりの山頂ピストンにほぼ半日分のフライフィッシングを上乗せ。
漕ぎ、巻き、ヘツリ、変化に富んだ道中。
これを日の出から始めて日没までに終えなければならない。

労働基準監督署に知られたら是正勧告を受けるに違いない。


実のところ、そうでもしないと尺岩魚はそうそう釣れないのであるよ。



この体高と体色。
その気になって探してもこんな岩魚はそうは見つからないと思いたい。

日頃、世に数多の親バカちゃんりんに一際醒めた一瞥をくれておきながら、この溪の岩魚になるとご覧のとおりの体たらく。



どうにか型が揃う。
このヒレを見てやって頂けませんかネ。














触ってはいけないとわかっちゃいても、見ているうちになんだかその気になってつい触っちゃった。
人生、時にはそんなことがあるのではないだろうか。




長年ここで岩魚を釣り続けているうちに、僕はこの渓の源流王として揺るぎない地位を確立することになってしまったのであるが、なにも初めから源流王だったわけではない。
最終的に生き残った釣り師がたまたま僕だったのである。

傍目にみていると、世の釣り師たちの大方はこの渓に到達するまでにふるい落とされて消滅していくようである。
釣り師の末期というものは案外あっけない。


出来ることなら。
源流王の座を速やかに後進に譲り、心穏やかに冥王などに就任し、将来的にはこの渓の守護神として品のいい笑顔を醸しつつ平穏に日々を過ごしたいのであるが、王の資質を備えた後継者に恵まれないのが実状である。
そんなわけでもう暫く僕が君臨していなければならない。
やれやれ。

無責任な釣り師の微かな責任感。



不躾ながら。
これが落ちているのは日常茶飯事である。
本体の名誉のために付け加えるけれどほぼ無臭である。





何であるか容易にお察し頂けることと思う。



これは特別天然記念物の死骸である。



さて。
安直に入渓を考える釣り師はこのようになる可能性が極めて高いのではないだろうか。
解剖学的と言えばいいのだろうか、力尽きた釣り師はいずれ分解されて溪の養分になる。
死して屍拾う者無し。


営利を目的とした釣り雑誌や動画などでは紹介されない多くの面を持ち合わせているのが源流遡行の実態なのである。


源流王の溪にようこそ。